名前の付かない私について
市役所に着く。お母さんに「これ」と駐車券を渡された。車停めておくからサービス券を貰ってきてねということだ。お気に入りのカバンに入れて、少し待っててね!と言って車のドアを閉めた。
今や世間は発達障害やASD、HPSなどなんらかの精神疾患を抱えた人間たちで溢れている。
漫画やエッセイなどは「生きづらい私は〇〇です」など何らかの精神疾患の丁寧なご説明から始まるものも多い。
人との関係をすぐに壊す。
自分の感情がコントロールできない。
悲しくて死にたくなる。
そんな私には、どんな病名もつかなかった。
正直、病名のついている人が羨ましい。
私の人生は特段語ることもない。
優しくて美人な母親が一生懸命育ててくれた。妹も可愛く外交的で、しっかり仕事をこなし周囲から信頼されている。
私だけだ、ブスで無能なのは。
酒に頼り全ての事象から逃げている。
正直何か理由があれば良かった。
精神疾患だとか、なんとか。だがそんなものはない。ただただ怠惰なダメ人間というだけだった。
仕事はしていた。
物を売ったり、時間を売ったり。
結構色々な仕事をしてみた。
どれも上手くはいかなかった。
自分が全てぶち壊した。
優しい人、変な人、
いろんな人と出会い、お付き合いした。
全員と縁が切れた。
絵を描きたいと思った。集中力もなく、気が付いたら床や壁を見ていて、あぁ才能がないんだなと思った。
職場の、
まあもうそれは良いや。
とにかく、これら全て何故こうなるかは分からなかった。産まれて、社会と関わってからずっとそうだから。
実際そういうものだと思っていた。
どの仕事もどの人間も、長くて1年でさようなら。
みんなそうだと思っていた。
だけどそうでは無いらしい。
この話を周りは面白いと笑ってくれる。よく言えば一期一会だし。
だけど、面白いと笑った人は、今、誰も私のそばにいない。
みんなが出来ることを、出来る人ほどはできないし、出来ない人よりは出来る。
ずっと"出来る人"と"出来ない人"の真ん中で生きている。
どうすれば分からなくなった。
今もわからない。ずっとわからない。
精神疾患を持っている方が羨ましいとかではない。
ただ、精神疾患もなく何もなく、素面なのに、渡された駐車券の存在を全く忘れて、そのまま車に戻ってくる私は救われないし死んだほうがいいんじゃ無いかなって。
「何のために駐車券渡したと思ってんだよ」と言われた時に、何のために生きているのか分からなくなった。
これっぽっちのことで。
つまんない人間だよな。
そういう話。