灰皿と指輪、午後二時。
彼の家の透明なガラスの容器。
それが灰皿で机の真ん中にぽこんと置いてある。彼が昔の彼女からもらった灰皿。
お買い物に行った時、灰皿コーナーを眺めていた彼が、ぼそりと「灰皿ほしいな」と言ったので、ここぞとばかりにばかなわたしは「そうなの、そう思ってた」といって、新しい灰皿を買った。今使っているものとは正反対の、真っ黒なものを。
わたし、薬指への指輪は、本当に好きな人と結婚した時だけつける。
そんなふうに考えて、高校の頃他の子がペアリングをつけていても絶対に自分はしなかった。なのに、なんでか、お揃いの指輪が欲しい、なんてことを言ってしまった。彼もペアリングはしたことがなかったらしくて、こんな事を言ったら重たい女におもわれちゃうかなっておもったけれど、案外あっさり「ああ、いいよ」と言ったものだったので、びっくりして、えっいいの?ときいてしまった。
そして日曜日にお店に行き、一番シンプルなものを二人で買った。
「名前の刻印もできますが」といわれたけれど、なんだかそれは変な感じがしたので断った。そんなものないほうが、きっといい。
指輪をはめて、手を並べて、彼がにこにこしていて、なんかこういうのが幸せなのかなってちょっと思っちゃった。すごくばかみたいでダサいけどね。
そんなこんなで今、わたしの右手の薬指には、ぴかぴか光る幸せがある。
左手の薬指は、いつか、だい好きな誰かにはめてもらう結婚指輪のためにとっておく。
そのとき、わたしの左手の薬指に指輪をはめてくれるのが彼だったらいいな、なんてことを考えながら、またすこし笑ってしまった。