世界が終わる時、午前六時。

 

中学校の、美術室のある一年生棟。一階の一番奥にある美術室。そこへ通じる廊下は薄暗く、夏でもひんやりしている。その場所がなんだか記憶に鮮明で、いつまでも忘れる事ができない。シン、と静まった廊下に響くわたしの足音。その時なにを考えていたんだろう。

中学生の頃なんて、今では大したことない事がすごく重くて大切だった。苦しいことも、悲しいことも、ご飯を食べてお風呂に入れば忘れた。

そんなことを思い出した。

 

わたしは、真っ赤な口紅を、きっちり塗る。

紫色の瓶の香水を、三回ふる。

あの時よりも汚れてしまったわたしは、そういうことで武装をして人間と対峙する。

苦しいことや、悲しいことは、お酒を飲んでも残った。見られることが恥ずかしかった裸は何人かの男性に見せた。痛くて開けるはずがないと思っていたピアスはどんどん増えた。人との距離は間違えてはいけないこと、人は信じてはいけないことを知った。それら全てはわたしにとっての 救い であり、逃げ でもあった。

 

いつか世界が終わる。悪いことをたくさんしてきたから。ご飯を作って放っておいたお鍋にカビが生えるのと同じだ。美味しい思いをしたら後片付けをしなければならない。後片付けができていなければ、厄介なことになってしまう。

世界が終わる瞬間に、わたしはたぶん良い人生だったというだろう。良い人生だったといいたいんだよ。

ああ、一番幸せな時に死んでしまいたい。

だって幸せの後に残るものは、不幸だけだからね。

恋人への今の気持ちが消えてしまうのなら、わたしは今、一番愛のある状態で、それを抱いて死んでしまいたいとおもうよ。

去り逝く二千十六年、

 

例年通り何もやり遂げることもなく一年が終わろうとしている。そしてまた同じような一年が来る。

洗濯機を回しながら、道路の端に座るねこをみている。

このクソみたいな一年を振り返ってみると色々あったようななかったような。一日中お酒を飲んでいた時期と適当な異性と適当に遊んでいた時期。あと恋人ができて幸せな時期。

一つだけ確信したのは生きることに明らかに向いていないということで、この先生きるのか知らないけどこれから先の人生悲しくなった。

恋人に死にたいっていうの嫌だと言われたのでなるべく言わないようにしているし、自傷もしないようにしているけどちょこちょこ限界がくる。

だからわたしはお酒を飲む。口の中を噛む。指の皮を剥く。血が出なければ自傷にならないし、気付かれることもないので。

一日に何回もする飛び降りる想像。首を吊る想像。お風呂で手首を切る想像。死ぬってどんなかな。そういえば時間って誰が動かしているんだろう。人ってなんでこんなにうるさいんだろう。

そんなことばっか考えた一年でした。

来年の抱負は、幸せな思考、それが出来なきゃ自殺成功。どうせどっちも出来ずにだらだら生きちゃうんだけど。

とにかく来年も頑張って死ぬか生きるかしような。

 

一%と狂気、午前六時。

 

耳障りな人の笑い声、頭が狂いそうになりながら笑うわたし。狂気に満ちた店内は誰もが当たり前のように息をしてアルコールを摂取している。気持ちが悪くて頭がぼんやりする。みんな死ねばいいのに。みんな死ねばいいのに。

充電一%のケータイで恋人と繋がっている。こんなにか細く不安定な電波しかわたしたちを繋ぐものはない。さみしいね。

仕事はつらいものだからってわかってるんだけど辛くてしょうがない。みんな殺したい。わたしを非難する人悪くいう人ぜんぶ。

 

お酒が回らない、話ができない、人の目が気になる。こわいねって言ってる。

好きな音楽も絵もわたしを救ってくれないどころか才能がないからって馬鹿にする。可愛くないから道が歪む。頭痛が鐘を鳴らして鼓膜に地震が起きて津波が来たらわたしはすぐに泣いてしまう。

恋人、わたしの恋人。わたしはあなたが愛し過ぎて死んでしまうかもしれない。悪いことばかりするわたしをゆるして。でもすこしは考えられるようになったよ。そんなこといっても言葉の少しもつたわらないし。

生きることがつらい。

疲労と憂鬱、午後六時。

 

気がつくと暗くなっていた。

わたしは昼も夜も仕事をして、もらったお金は全部お洋服に使ってしまっている。なのに、着て行く場所はどこもないのでお家で煙草吸ったりご飯食べたり洗濯機回したりしてる。

ただただ消費するだけ。こんな人生に何の意味があるのだろうか。もらった薬が終わっちゃったけど病院に行く元気はないし髪の毛はぼろぼろだし顔もブスだし。才能だってないから何にもできなくて、ぼけっとしていたらきてしまう明日に怯えてお酒飲んだりしちゃってる。何の意味もない人生。

 

恋人に心配をかけないように、死にたいとか言わなくなったけど、心のどこかには常に死にたいがいて、その張り詰めた球体に突然ぷつっと小さな穴が開いてどろどろ流れだしてくる。

わたしはあかちゃんだから、優しくしてよってあかちゃんじゃないからいえないし。

 

ああまた仕事に行かなくちゃ。

生と死、午前二時。

 

生きることに疲れてしまった。

何畳なのか知らない部屋に座りながら考えている。

お腹がいっぱいで眠たくて、煙草を吸いながら最後のお酒を開けようとしている。本当に、生きることに疲れてしまった。

 

てゆうか、なんのためにみんな生きてんの?

好きな音楽聴いても、楽しいことしても、全部死にたくなるんだけど、みんなこんなことの繰り返しで四十年も五十年も生きてるわけ?頭おかしいんじゃないの。

大好きなアーティストはおまえのこと救ってくれないよ、大好きなことはおまえを認めてくれないよ、知ってんの?漂う煙すらわたしのことを馬鹿にしているし、呼吸する生き物がどんどん崩壊していく。

馬鹿にしないでよ、頑張って生きてんだからさあ、ほっといてよ。

 

ギャンブル場とニュース、午後十時。

 

騒音の中、休憩スペースのソファに座って、甘いカフェオレを飲みながら煙草を吸っている。目の前のテレビでは、誰が死んだとか怪我したとか、そんなニュースばかりで飽きてしまった。そんなことは御構い無しで、大音量のハイテンションなBGMの中、パチンコ台はピカピカ光って人間は娯楽に耽る。

明日死ぬかも知れないけれど、今日を生きるためにお金を稼いで、今のために楽しいことをしてそれが普通なのに疑問に思って悲しくなって。それが病気だと言われたらそうなのかも知れないけれど、何の疑問も持たずに生きていくことなんてできないよね?

画面の中のおじさんたちは不満そうな顔をしていて、自分の思い通りにならないことに怒っている。おじさんたちが悪いのか、その相手が悪いのかは知らないしわたしにとってはどうでもいいことで、ただ甘ったるいカフェオレが胃でもたれて気持ちが悪くなってきた。

なにもかもが上手くいかないし、じょうずに生きることができなくて辛い。明日も頑張ろうなんて思えなくて、このまま死んでしまいたいと思うけれどそんなこともできなくてだらだら生きているだけ。目の前のことから逃げてきた結果がこれなので、誰にも文句は言えないね。幸せになったってそれが怖くて自分で壊してしまうものね。どうしようもないね。

何人もの人がわたしの前を通り過ぎて、その人それぞれに人生があるなんて考えられないし知りたくもないけど、ただそれってものすごく気持ちの悪いことだね。

わたしは偉そうなテレビの中のコメンテーターに死ねって言ったけど、お前がなって返されちゃった。

夜と夕方、午前五時。

 

いつもみたいに洗濯機を回していた。壁がやけにオレンジ色だなあと思って見てみると綺麗な夕焼けだった。じっとみたら視界の真ん中に黒い丸が出てきたので、やっぱりオレンジ色は嫌いだと思った。

 

仕事が終わってコンビニで煙草を吸う。白い煙が紺藍の空に吸い込まれて消えていく。息が白くてもう冬だねって言いたいけれど、隣に誰もいなかった。今日は星が綺麗だったけれど、恋人はそれを見ただろうか。怒らせて、呆れさせて、諦められてしまったわたし。わたしが全部悪いのに、離れることができないでいる。不幸にしているのはわたしなのに。可哀想な恋人は、「早く帰ってこい」なんて言ってくれるけれど、本当はもう帰ってこないでほしいのかもしれない。こんな仕事、こんな自分、全部ゴミだよ。生きていくにはお金があった方がいいけれど、なんだかもうわからなくなってしまったよ。わたしがやってきたことって全部無駄だったかな。

なにもわからないけれど、悲しくて顔がみたくてしようがなかったから、コンビニでご飯を買って、また小さなアパートへ帰ってしまった。

わたしが帰っても、恋人は笑わなくなってしまった。わたしのせいで。