雨と白、午後一時。

 

恋人の家から、実家に帰る。たくさんの心配事と、悲しみも一緒に持って。

同じだったシャンプーの香りを洗い流して、お茶を飲んで一息つくと、なんとも言えない虚無感に襲われる。

頭にこびりついた光景は、アパートの外に落ちているまっ白くて綺麗な蛾、夜の公園で控えめに瞬く星、部屋に横たわる空っぽのペットボトル、君の形の良い足。

全部が過ぎ去って、遠くなってもわたしはそれらを覚えていられるかな。

覚えていたいと思えることが増えるのはとても幸せだ。

くそダセー生き方しよ。頑張っちゃったりしよ。わたしを見下したみんなに、笑顔で中指たててやろ。

ドラマティックと人生、午後四時。

 

青い鳥が地面で死んでいる。蟻が列をつくり、そこに群がる。わたしの幸せはここで終わってしまっていた。最近夢と現実の境が曖昧になっていて、人の家で寝てると思ったら自分の家だしいると思ったらいないししてると思ったらしてない。でも笑ってるよ。

 

この間、例のごとくわたしがお酒に酔っ払ってベロベロになった時に、いつもの貞操観念の緩さ、自己管理能力のなさで恋人を悲しませてしまった。

出先から家に帰って、わたしは眠たくてそのまま玄関に倒れて、頭の上で彼はなにかを話しながら泣きだして、気がついたらわたしはパンツのままシャワーを浴びていて、気がついたら彼は家から出て行ってて。もたもた近くにあった洋服を着て、裸足で外に飛び出した。走って走って、散歩のおじいさんに見られたりして、疲れて座り込んだ。そうしたら、遠くから彼が走ってきた。君が出てったのに、どうして君がそんな困った顔で走ってくるの。わたしは普通に、心配したよって言ったと思う。おんぶしてくから背中乗れって言われたから、嫌だ歩けるって言ったら、お前たまには俺の言う事をきけよって怒られたのでしょうがなくおぶられて帰った。

その日はシャワーを浴びて、お酒を飲んだらいつの間にか寝ていて、いつの間にか夕方になっていて、いつの間にか仲直りしていた。

 

ていうか、こんなドラマティックな人生、望んでいないよ。

ばかみたいじゃん。

 

好きなひとがいる。いま喧嘩をしているけど。

わたしはその人とそんなに長く続かないんじゃないかって思っている。でも好きなので、できる限り一緒にいたいとおもっている。

そして理想的な恋愛とは、と考えたときに、

「ギュッとしてから、ひっぱたいて、それから、わたしの嫌いなところを十個言って、そうしたら、わたしの好きなところをできる限りたくさん言って、泣いて疲れて笑えたら、涼しいお部屋で暖かい毛布に包まって、二人でぐっすり眠ろうね。」

というのが理想的な恋愛なんじゃないかと思ったけど、なんだかすごくばかみたいね。

 

好きって気持ちが全然わからないけど、新しい香水と丁寧にした化粧で一番最初に会いたいのはきみだから、たぶんそういうことでいいんだと思う。

これ、きみは気にいるかな。

煙草とお酒、午前四時。

 

きみの、煙草の吸殻を外に捨てないっていうところが、とっても好きだっていうのも、伝えるには少し恥ずかしくて。

わたしは一人で今、外の風に吹かれてお酒を飲んでいるけど、なんだかすごく悲しい気持ちだ。

あかとみどりのひかりを眺めながら、自動販売機の音をききながら、ぼうっとしている。

電話が切れた瞬間に好きって言っちゃうのは、こわいから。おうちに帰りたくないのは現実を見たくないから。

わたしの人生は誰のものなのって、足元のお菓子の袋に煙草の火を当てながら訊いても、ただプラスティックが静かに溶けてゆくだけで、こたえてくれない。

ピアスがカチカチ音を立てるけど、座る椅子は硬いまんま。

遠くで車の音。黒い影が迫る。夏を感じさせない夜は、わたしを静かに安心させるけど、脳みそははっきりしているので、寂しさも全部心臓に浸みて、どんどんこころが重くなる。

アルコールに浸っても、こころが軽くならないのは、わたしがダメな人間だから。

大事な人がいても、信じて愛せないのは、わたしがダメな人間だから。

わたしがダメな人間だから、わたしがダメな人間だから、イイ人間になろうとしてもなれないのは、わたしがダメな人間だから。

分かってい変えられるなら、とっくに幸せを感じていたよ。

虫の声も、空気の音も、揺れる視界も、なんにもわたしを救ってくれない。

わたしがダメな人間だから。

なぐり殺す。

 

幸せってなんだ?

自分がそう感じたらそれが幸せかな。

他人から見た姿は関係ない。他人にどれだけ不幸だと思われても、自分が幸せだと感じたらそれが幸せ。

ねえ、良い子ってなに?

やってはいけない悪いことってなに?

わたしお仕事頑張ってるよ。カラダに悪いこと全部、やめられなくなっちゃったよ。早く死んじゃえばいいやって、そんな簡単にいくの?

 

深夜、道路の真ん中に体育座りをして考えた。

お母さんは一人目を失敗した。妹はよくできている。わたしはとても駄目だ。

いや違う、わたしが悪い。全部わたしが悪い。それを誰かになすりつけようとしているだけだ。自分の人生の責任は自分が負わなくてはならない。お母さんのせいではない。わたしがいけないから。

ねえこれからどうするの?

未来に夢も希望もないね。

全速力で道路を走って、石を投げて棒を拾った。息をした、たくさん。たくさん。

たくさん考えた。何もわからなかった。なんかみんなひとりだなって思った。

こわいよ、本当に。

非日常と人生、午前五時

 

夜の仕事をしている人は、一見普通に見えてもどうにもできない問題を抱えている場合が多い気がする。昼間の仕事やりたいなあ、病院の受付したいって言ったら、「いや無理でしょ」って言われたので、どうして?と聞くと微笑みながら耳と腕を指差された。

ラブホの天井に点々とくっついている電球を眺めながら、人生こんなはずじゃなかったのになあって思う。だけど、じゃあどんなはずだったのかってきかれても全くわからない。小中高と、大人になった時の自分の想像がまるで出来なかった。OL?学生?全部しっくりこなくて、とにかくそういう風に働いたり生きたりしている自分を想像できなかった。本当に未来が真っ白だった。

どうしてしまったんだろう。小さい頃はピアスなんて痛いもの絶対に開けないって言ってたのにどんどん増えてしまったし、煙草なんて吸わないと思ってたのに今は美味しく感じちゃうし、セックスなんて恥ずかしいことできないと思ってたのにそれよりえげつないことしてるし。痣と傷だらけのからだが鏡にうつるたびに自分は本当にどうしようもない人間だとおもう。こんなはずじゃなかったことしかない。予定通りなのは着々と未来が潰れているということ。ぶちぶちとイヤな音を立てて。

わたし、いつまでこんな仕事するの?いつまで生きてるの?高速バスに揺れられながら、そんなことを考えていた。空が明らむ。もういいや、好きな人のことを考えよう。

蒼く白い朝。

 

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カーテンから漏れる光は蒼白い。黄色ではないその光はわたしを落ち着かせ、落ち込ませる。冷蔵庫の音をききながら、夢のなかの感情を反芻。

 

日差しが強く、暑くて、人の目線がまとわりつくような感覚のする夏は本当に嫌いというか、昼間は外に出ると体調が悪くなる(気がする)ので、なるだけ外に出ないようにしている。ただ、本当に家にいたくないのでそれも困っている。うるさいテレビからは、偉そうな芸人が自論を振りかざし、男女のドラマはべたべたとくっつき、回りくどいやり方で思いを伝えようとしている。それらを目から耳から摂取させられる度、わたしの脳は傷つくし、容量がいっぱいになると腕が傷つくという仕組み。えらくわかりやすい。

 

わたしはやっぱり人を誘うというのが苦手で、そもそも断られるのが怖いし、「いいよ」って言われてももし無理していたらどうしようとか思うし、そもそも自分が予定が近づくと嫌になってきちゃう。だから、会いたいときにすぐ呼べる気のおかない人が欲しいんだけど、そもそも友達を作るのが困難なのにそんな人つくれないなあという事に気がついてまたため息ついてしまう。「ため息をつくと幸せが逃げてしまう」とよく言う。

逃げていく幸せも、もう、そんなに残っていないよ。

 

人の目が怖かったり、夏は体調が良くなかったり、すぐ悲しかったり、死にたくなったり、っていうのが、本当に自分の考えていることなのかと思う。実は嘘ついてるんじゃないか?とか本当はそんなこと考えていないんじゃないかって思う。

んまあ、だからなんだって話なんだけど。