世界が終わる時、午前六時。
中学校の、美術室のある一年生棟。一階の一番奥にある美術室。そこへ通じる廊下は薄暗く、夏でもひんやりしている。その場所がなんだか記憶に鮮明で、いつまでも忘れる事ができない。シン、と静まった廊下に響くわたしの足音。その時なにを考えていたんだろう。
中学生の頃なんて、今では大したことない事がすごく重くて大切だった。苦しいことも、悲しいことも、ご飯を食べてお風呂に入れば忘れた。
そんなことを思い出した。
わたしは、真っ赤な口紅を、きっちり塗る。
紫色の瓶の香水を、三回ふる。
あの時よりも汚れてしまったわたしは、そういうことで武装をして人間と対峙する。
苦しいことや、悲しいことは、お酒を飲んでも残った。見られることが恥ずかしかった裸は何人かの男性に見せた。痛くて開けるはずがないと思っていたピアスはどんどん増えた。人との距離は間違えてはいけないこと、人は信じてはいけないことを知った。それら全てはわたしにとっての 救い であり、逃げ でもあった。
いつか世界が終わる。悪いことをたくさんしてきたから。ご飯を作って放っておいたお鍋にカビが生えるのと同じだ。美味しい思いをしたら後片付けをしなければならない。後片付けができていなければ、厄介なことになってしまう。
世界が終わる瞬間に、わたしはたぶん良い人生だったというだろう。良い人生だったといいたいんだよ。
ああ、一番幸せな時に死んでしまいたい。
だって幸せの後に残るものは、不幸だけだからね。
恋人への今の気持ちが消えてしまうのなら、わたしは今、一番愛のある状態で、それを抱いて死んでしまいたいとおもうよ。