馬と鹿、午前十一時。

 

彼の生活を乱しているのはわたしだ。

学校に行かなくちゃ行けないのに、わたしの仕事が終わるまで起きて待っててくれる。彼は疲れていて、眠たいのに。わたしがわがままで寝たくないっていうと、おもしろい動画を一緒にみて笑ってくれる。お酒ひとりでのむの寂しいっていうと、のめないのに一緒に飲んで、顔真っ赤にしながらにこにこしてくれる。アフターで遅くなるのに、待っててよっていうと、バイトの後に他のお店で一人でも待っててくれる。

彼の生活を乱しているのは、わたし。

でも、彼の生活を乱せるのがわたし だけ って思うと、なんか少し嬉しいので本当に嫌なおんなだね。

 

金木犀がいい匂いだとか、星がいつもよりきらきらしてるとか、街灯のない真っ暗なコンクリートの道は海みたいだとか、そんなことを言った時に共感なんか欲しくなくて、わたしの一言をただ脳で吸収してほしい。返事なんて要らないから、手は離さないでほしい。そういうひとが欲しかったので、いまとても幸せ。幸せの後は悪いことが起きるはずだけど、そんなのもうどうでもいいかもしれない。

 

彼は寝ている時に前髪を撫でると、鬱陶しそうによける。

わたしは自分のことやっぱり好きにはなれないけれど、でも最近笑うことが増えた。嫌いな笑顔も少しマシに思えて来ちゃったよ。

彼のこと、好きじゃなくなってしまう時が来るのかな。彼はわたしのこと、嫌になってしまう時が来るのかな。

なんだかそんなの、スゲー嫌だね。